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2008年01月09日 08:00

地域イノベーション・システム (イノベーション/永田)

前回は、国の競争優位を分析した
マイケル・ポーターのフレームワーク
についてお話をしました。
そのフレームワークの中では、
一国における特定の産業部門が分析対象となり、
その産業に属する企業にとっての
要素条件、需要条件、関連産業、
企業間競争の状態といった側面が
分析されてきました。
このフレームワークは、
イノベーションを促す競争の
国内的な条件に焦点を当てているため、
特定地域における産業集積の特徴を
把握するために応用されてきました。


ある産業と、その関連産業が
特定地域に集積した状態は、
「産業クラスター」と呼ばれています。
これは地域レベルのイノベーション・システムを
理解する上で、重要な鍵となる概念の一つです。
今回は、
この地域イノベーション・システム(Regional System of Innovation)
に関するトピックについて、お話したいと思います。


■クラスター政策と地域イノベーション
まず、改めて「クラスター」という語についてご説明します。
この語は、近年の日本の科学技術政策や
産業政策の中で頻繁に用いられています。
例えば、文部科学省の「知的クラスター創成事業」、
経済産業省の「産業クラスター計画」などを
挙げることができます。
こうした政策には、一つの共通点があります。
それは、大学や公的研究機関をコアとして、
その周辺にある企業との連携を促進することにより、
地域発のイノベーションを創出していこうという発想です。


全国総合開発計画に代表される
従来の日本の国土開発計画の中では、
東京一極集中の是正や、多極分散型の国土形成が
スローガンとされてきました。
つまり、様々な産業を地域に分散させ、
ユニークな地域を形成させるという考え方です。
これに対し、クラスター政策は、
単なる産業集積のメリットを追求するのではなく、
また単なる産業の地方分散を
企図しているものでもありません。
その意味では、新たな地域政策への転換を
志向していると捉えることができます。


■地域イノベーション・システムのモデル
しかし、ここで問い直すべき問題があります。
そもそも、
なぜ大学と産業集積の地理的な近接配置が、
イノベーションを促進するものとして
期待されているのでしょうか。
こうした期待の背景には、
一つの地域イノベーション・システムの
モデルがあると考えられます。
それは、アメリカのシリコンバレー・モデルです。


ご存じの方も多いと思いますが、
アメリカのカリフォルニア州南西部にある
シリコンバレーと呼ばれる地域には、
ハイテク企業の集積がみられます。
このような集積が形成され始めた契機として、
1つのエピソードがあります。
1973年にスタンフォード大学の
フレデリック・ターマン教授の勧めにより、
当時学生だったビル・ヒューレットと
デイビッド・パッカードの2人が、
パロアルト銀行から借りた資金を元手に
計測器のビジネスを創業しました。
この会社は、後にヒューレット・パッカードという
有名企業に成長しました。
いわゆる、大学発ベンチャーの先駆けといえるでしょう。
現在でも、シリコンバレーには、
スタンフォード大学を中心に、
多くのハイテクベンチャー企業と、
それらに資金提供を行うベンチャーキャピタルが集積し、
依然として新たなベンチャー企業が
活発に創業されています。

■サクセニアンの地域比較研究
しかし、卓越した大学と産業部門が地理的に近接していれば、
自動的にその産業の活力が維持されるものではありません。
この点を知る上で参考になる研究が、
カリフォルニア大学バークレー校の
アナリー・サクセニアンという研究者によって行われました。
その研究の成果は、1994年に出版された
”Regional Advantage”という著書にまとめられています。


サクセニアンは、
シリコンバレーとアメリカ東部のルート128号線周辺地域の
比較研究を行いました。
ルート128号線周辺地域にも、MITという卓説した大学があり、
多くのハイテク企業が集積しています。
しかし、この地域はシリコンバレーとは異なり、
新規創業の企業などが次第に減少し、
活力が失われていきました。
なぜこのような差異が生じたのかという点について、
サクセニアンは分析を行っています。
シリコンバレーの地域システムは、
各種の専業メーカーが分業関係を構成しており、
ネットワーク型システムとしての特徴を持っていました。
一方、ルート128号線周辺地域に集積している企業は、
様々な機能を社内に持つ内部統合度が高い大企業が中心であり、
独立企業システムとしての特徴を持っていました。


独立企業システムでは、
企業集積がもたらすメリット(外部経済)を
享受することができません。
これに対して、
シリコンバレーでは企業の垣根が低く、
様々な機能を持った専業企業が
開放的に結びついており、
大学と企業の間でも活発な交流が行われていました。
このため、企業はマーケットの要求の変化や、
技術の変化に素早く対応できているのだと、
サクセニアンは説明しています。
つまり、大学と企業が単に近接しているだけでは、
イノベーションは起こらないといえます。
クラスター政策は、地域イノベーションの
必要条件を整備するものではありますが、
十分条件を与えるものではないのです。

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