2006年08月17日 08:20
職務発明を巡る裁判はなぜ頻発するのか? (産学連携/高田)
東芝の元社員で、現在大学教授をしておられる舛岡さんが、
携帯電話などに使われている記憶装置のフラッシュメモリの
発明の対価を求める裁判を起こされていましたが、
最終的に和解という形で決着がつきました。
今回はそのお話をさせて頂きたいと思います。
■ 社会的に関心が高まる職務発明の対価を巡る裁判
職務発明の対価を巡る裁判は、
例の中村修二さんの青色ダイオードの裁判などで
社会的に非常に関心が高くなっています。
今回の裁判では、
発明の価値は11億円あるのだということで、
舛岡さんは東芝に対して
11億円の対価を要求されていましたが、
最終的に東京地方裁判所が
8700万円という金額を提示して、
両者和解が成立、決着を見ました。
■ 「発明の対価」の議論は歴史的に十分なされてこなかった
そもそも、最近どうして
職務発明を巡る裁判が頻発しているのか
ということが大変気になります。
その理由はいくつかあると思われますが、
まず一つに、「発明の対価」の議論が
歴史的にきちんとなされてこなかったことが挙げられます。
我が国では特許法の中で発明の対価について定めており、
職員の発明は原始的には発明者に帰属するけれども、
相当の対価をもって会社に譲渡出来ることになっています。
しかし、この「相当の対価」の算定根拠が明確ではなく、
非常に漠然としたものだったのです。
企業側もこの状態を歴史的に放置していました。
例えば、特許を出したら、その時に1万円渡す。
そういうことで終わらせていたケースが
非常に多かったのです。
つまり、「相当の対価」が何なのか
という点について十分に議論してこなかったこと、
そのツケが今、出てきているのだと考えます。
■ 訴訟乱発による心理的な変化
90年代に入ってこの手の訴訟が乱発し始め、
中には億単位の対価を勝ち取れる
という例も出てくるようになりました。
一般に、日本人が個人としては
余程のことがないと裁判を起こす
というような事態には至らないのが通常でしょう。
しかし、最近の社会状況の変化の中で、
もといた会社を相手取り裁判を起こすということに対し、
元社員が訴訟を起こすことに対して心理的な面で躊躇することが
徐々に少なくなってきているのかもしれません。
こういったことが近年この手の訴訟が頻発している
原因になっているのではないかと考えられます。
■ 国の対応
国はこの状況を放置しているわけではありません。
先程ご説明した特許法ですが、
去年4月に改正されました。
会社と従業員はきちんと協議をし、
どういう時にどういう対価を払いますよということを
社内の規定で明確にして下さい
ということを定めました。
これにより、会社としては訴訟を起こされるリスクが減ります。
一方、従業員は、いい発明をしたら、明確な根拠に基づいて
対価がもらえるということになりました。
現在、企業は両者が納得出来るような規定を
整備し始めていますので、今後こういった訴訟は
少しずつ減ってくるのではないかと予想されます。
■ 従業員が力を発揮できる雇用環境の提供を
でも、そもそも、なぜ元いた古巣の会社を
訴えるようなことが起こってしまうのでしょうか?
両者の関係が相当に悪化しないと、
訴訟にまではなかなか発展しません。
中村修二さんの場合は、
元はといえば、中村さんが会社を退職する際、
秘密保持契約書へのサインを巡って
会社の硬直的な対応に
不満を持ったのが発端だとも言われています。
更に、なぜ中村さんは会社を辞めて
アメリカの大学の教授になろうとしたかというと、
会社にいると、技術者は一定の年齢に達したら
管理職に就かねばならず、
研究開発の一線から離れざるを得なくなる。
中村さんはそれが嫌だったようです。
また、元東芝の桝岡さんは、2つの訴訟理由を挙げています。
①報酬の低い技術者を元気づけたかった、
②経営者に、
「リスクを取って新しいデバイスを開発すべきだ」
というメッセージを送りたかった。
技術者の立場で見てみると、
研究の現場から無理に引き離されるとか、
新しいチャレンジに対して
会社が全然リスクを取ってくれないというのでは、
研究者魂や技術者魂というものは発揮出来きません。
しかし、こういった状況をこれまで会社は
作ってはこなかったでしょうか。
また、よく言われていることですが、
技術系というのは総じて給料が少し安い。
このことがさらに
追い打ちをかけているのではないかと考えられます。
こういった技術者の雇用やインセンティブに関する問題は、
実は多くの技術系の会社で見られることだと思います。
やはり会社というのは、
従業員がどこに満足を求めているのかということを見極め、
従業員が思いきり力を発揮出来るような雇用環境を、
柔軟な発想で提供出来るかどうかが非常に重要だと思われます。