BBIQモーニングビジネススクール > 知的財産とリサイクルの悩み多き関係 (産学連携/高田)

2006年06月22日 08:20

知的財産とリサイクルの悩み多き関係 (産学連携/高田)

北部九州にはリサイクル事業に携わっておられる企業もたくさんあるかと思います。
今日は知的財産とリサイクル産業との間の悩ましい問題についてです。


ある会社がキヤノンのプリンタのインクカートリッジをリサイクルしていたのですが、
キヤノンがこの会社を訴え、知財高等裁判所で勝訴しました。


このことはリサイクル産業全体に大きな影響を与えています。


■ リサイクルアシスト vs キヤノン

そもそもは、リサイクル事業を行っていたリサイクルアシストという会社が、
空になったカートリッジを回収し、
中国で洗浄およびインクの詰め直し作業などを行い、
それを輸入して純正品よりも安く販売していたことが発端です。


この状況は、キヤノンにとって、
多大な資金と時間を費やして良い製品を開発したにも関わらず
純正カートリッジが売れなくなるという死活問題となります。
「こんなことをされたら誰も新しい製品を作らなくなるじゃないか」ということで、
キヤノンはリサイクルアシストを相手取り、訴えを起こしたというわけです。


■ 裁判の争点

今回の裁判で一番の争点となったのは、
インクを詰め直すという作業が「特許侵害」にあたるかどうかということです。
やや専門的になりますが、
特許法には「特許の消尽(しょうじん)」という考え方があります。
これは、特許が使い尽くされて効力がなくなっているという考え方です。


リサイクルアシストの主張は、特許は消尽しているということでした。
つまり、消費者が最初にキヤノンの純正品を買ったところで、
特許料は価格に上乗せされて払われているのだし、
その後同社がカートリッジを回収して
インクを詰め直すのは修理のようなものだから、
リサイクル品には特許権は及ばないというのです。


これに対するキヤノンの主張は、
インクを再充填するのは修理ではなく生産にあたり、
特許の消尽の例外に該当するので、
リサイクルアシストの行為は特許侵害にあたるのだというわけです。


■ 裁判の結果と業界への影響

最終的にはキヤノンの勝訴という形で
知財高裁の判決が出たわけですが、
この訴訟はリサイクル業界に対して大きな影響を与えています。


修理の場合は特許権が及ばないが、
生産の場合は権利が及ぶという基本原則にもとづいて考えても、
リサイクルの場合、修理と生産の線引きが非常に難しいのです。
どこまでが修理で、どこまでが生産なのか― 


結果的に、リサイクル企業は、
特許を持っているメーカーからいつ訴えられるか分からず、
びくびくしながら事業を行わねばならなくなりました。
今回の判例は、リサイクル産業全体に
ある種の冷や水を浴びせかけたのではないかと思います。


■ リサイクルの重要性と特許

リサイクル製品の社会的重要性については
知財高裁も判決の中で言及しています。
しかし、だからと言って
特許権が侵害されてもよいということにはならない
というのが知財高裁の見解です。


最初に開発した人は、
大変なお金と知恵を織り込んで製品を作るわけですから、
簡単にリサイクルされて格安で売られたのでは
開発者のインセンティブが失われてしまうということで、
知財高裁は特許権者を守る判決を出したわけです。


ちなみに、よく言わることですが、
プリンタやコピーというビジネスモデルは、
プリンタやコピー機本体の販売よりは
むしろ消耗品の販売で利益を出していくものなのです。
従ってこの利益をリサイクル産業に奪われるのは
何としても避けたいという意図が
キヤノン側には強く存在したのかもしれません。


■ アメリカにおける事例との相違

アメリカでも類似した訴訟が過去にあったそうです。
しかし、アメリカでは純正のインクカートリッジを生産、販売していた会社が敗訴し、
リサイクル企業が勝訴したのです。


では、裁判で負けた会社はどうしたかというと、
自らリサイクル会社までも作ってしまったのだそうです。
純正品を販売するけれど、
同時にリサイクルビジネスにも乗り出したというのが
アメリカの事例の結末だったということです。


今回、同種の裁判にも関わらず
日本の判決はアメリカとは全く逆に出てしまったので、
これからどういう方向に動いていくのか、
暫く注視していく必要があるように思います。


この話は、何のための、誰のための知的財産なのか
ということについて、非常に深く考えさせられる事例だと言えるでしょう。

前の記事へ 次の記事へ


ブログ&ポッドキャスト検索

ページの先頭へ戻る